チャンまなと二人で公園の遊歩道を歩いていた。
季節の頃で言えば秋である。気温の上に数字だけ残る残暑を見ないフリをして、そろそろカーキ色のパンツとか、からし色のシャツを着てみたい。
「からし色って、いまはマスタードって言うんだよねぇ」
チャンまなはそう言って銀杏のなる並木を眺めた。冬を迎えにいく風が日増しに冷たさをまとい、穏やかな空気と同居する季節の変わり目は、緩やかな時間のなかに忙しい冬の気配を湛えていた。
チャンまな、というのは僕の所属するロックバンド=オズワルドのメンバーである。激しいギター・ボーカルを男顔負けのパフォーマンスで披露するその姿は、「おんな版ミッシェル・ガン・エレファント」と評されており、メンバーとしては非常に鼻が高い。モデル顔負けの美貌とスタイルを持ち、面がまえも悪くない。華のある自慢のフロントマンである。
チャンまなは、びっくりするくらいおっぱいがない。
男性目線で見ても、ちょっと同情してしまうレベルである。なにを隠そう、「チャンまな」という名前も本名ではなく、「まな板」に由来するニックネームである。
渦を巻くように木枯らしが落ち葉を舞わす向こうから、女性が歩いてきた。秋めくあずき色のショップコートを手に抱え歩く彼女は、やはり季節を意識した服装をしてみたものの、少し暑かったと言ったところだろうか。
すれ違いざまに、白いカットソーの胸元からのぞく豊かな谷間が見えた。秋らしい格好のなかに、でもやっぱり暑いもんなと思わせるような、非常に好感の持てる彼女の薄着に、いまだにTシャツ一枚の自分を肯定してもらった気がした。
公園の奥には、白鳥ボートがたたずむ広い池がある。今日はそっちのほうへ歩いてみよう。そう思ったときだった。
「いま胸見てたろ?」
チャンまなが僕に尋ねた。「え、見てないよ」すぐに僕は答えた。「いや、絶対見てた!」チャンまなはそれでもゆずらない。
「嘘つくな! 絶対胸見てたろ! この、汚らわしい目め〜!」
チャンまなはまな板同然の自分の胸をグリグリと僕に押しつけてきた。驚くほど感触のない、ただの胸板だった。
「この変態! 汚れた目をつぶしてやる〜! まな板をナメんなよ〜!」
すると僕は言った。「やだ、舐める!」
胸を舐めるようにカプッと咥えると、チャンまなは「あんっ、ダメッ……」と感じはじめた。
〜fin.〜
ニーゼロニーゼロの初夢が、友達のおっぱいを舐めるという最低の演出で幕を開けた。
ちなみに、チャンまな本人にLINEでこの夢の内容を伝えると、「今晩はわたしでヌくの確定だね」とハートマーク付きで返事を寄越した。おんな版ミッシェル・ガン・エレファント、したたかなり。