誰かが忘れているかもしれない僕らに大事なアコースティックベースのこと

2024/03/23

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流行歌ばかり聴いていた中学時代、YUIのシングルを買うとc/wにひとつまえのシングルの弾き語りver.が収録されていたし、Aqua Timezのアルバムを買ったらシングル曲のアコースティックver.がボーナストラックに入っていた。ゆずは2枚組のベストアルバムをリリースしたし、なにより僕がアコースティックギターを買って挫折し一度はあきらめた年頃がその時代だ。

高校に入り、洋楽を聴くようになるとオアシスの「Wonderwall」やビートルズの「A Day In The Llfe」、ニール・ヤングの「Harvest Moon」あたりを好んだ僕は、結局ジェームス・イハの音楽はスマッシング・パンプキンズよりソロのほうが好きだったりする。

アコースティックな音楽は手軽で、身軽で、いちばん身近な感情をいちばん親しく教えてくれる。愛や恋をうたうのに、かならず必要な要素だと思っている。ロックバンドが愛をうたうときでさえ、アティテュードや魂としてのアコースティック精神はずっとピックに宿している。

こないだ、とうとうアコースティックベースを買った。My New Gear...。言いたかったぜこの言葉。普段めったにしないもんでね。

アコースティックベースの市場流通量は少ない。アコースティックギターはあれほど売れてるのに、アコースティックベースときたら楽器屋でお目にかかってもせいぜいKALAのウクレレベースとかだったりする。本当の意味で実践的なアコースティックベースというものは、実は楽器業界全体でかなり限られたところでしかつくられていない。

そもそも楽器の役割や構造が弾き語りやアコースティック音楽に向いていないんだとも正直思うけど、上に書いたような音楽体験を血肉に生きる人間として、あるいは一度はアコースティックギターを諦めた人間として、アコースティックベースには並々ならぬこだわりと憧れがあった。

ボブ・ディランやニルヴァーナをはじめMTV Unpluggedにはかなり影響を受けたし、エリック・クラプトンの「Layla」のUnplugged Ver.を聴いたときは、心臓が破裂するかと思った。いつもノイジーで、エレクトリックな音楽をするミュージシャンがアンプラグドで演奏すること自体かなり興奮するのに、ソリッドな楽曲が原型をとどめたままアコースティックに届けられると、僕らの心はこんなにも簡単に満たされる。ちょろい。

クラプトンを追ってロバート・ジョンソンやマディ・ウォーターズを聴いたときや、アイルランド民謡を掘りすぎてボシー・バンドやジョニー・キャッシュにたどり着いたときも覚えている。正直ハマったというよりは「とうとうここまできたか…」という感慨が勝った気がするけど、それでもブルースやケルトの響きは単純に魂の洗濯になった。

こんにち、アコースティックライブの現場において、ベースの役割はエレキベースでまかなわれることが多いのが現状だ。それだけアコースティックベースはステージでの選択肢が少ないし、エレキベースのほうが演奏性も担保されている。それでも僕はアコースティックベースが好きだし、アコースティックベースを弾いているミュージシャンに惹かれる。

リードギタリストがアコースティックで演奏するときは12弦ギターを用意するとか、ロカビリーをやるなら棺桶みたいなウッドベースをスラップするとかと一緒で、アコースティック編成においてアコースティックベースを弾くことは僕のなかでは様式美である。「そういうもん」なのだ。理由は「カッコいいから」だ。ロックバンドにおいてこの言葉は、説得力にはならなくても理由として十分な攻撃力がある。

NICO Touches the Wallsが『Howdy!!』をリリースしたときや、UNISON SQUARE GARDENがアコースティックアレンジを披露するときなどを観たが、近年少しずつアコースティックベースを手にするベーシストも増えた印象だ。音楽的にアコースティックな風景を共有する背景もあるだろうし、Fenderが手軽なアコベをリリースしてくれてのもでかい。前線のプロがアコースティックベースを弾いてくれるのは嬉しい。僕がベースを弾きはじめたころは5弦ベースはかなりイロモノでテクニカルな印象だったけど、いまではスタンダードな選択肢のひとつになっている。アコースティックベースも今後活路を開いてくれるのではないかと期待してしまう。

ジョン・ヴェゼリーはセカンドハンド・セレナーデを始めたきっかけとして、「最愛の妻にラブソングをうたうとき、エレキベースはよくないよね」と笑いながら話したという。僕自身、バンドが解散してからアコギをちゃんと練習した一人だから、アコースティックギターを手にとることは簡単だけど、それでもいっぱしのベーシストとして、アコースティックベースでどこまで表現できるかという挑戦もしてみたいと思った。結局ね、アンプ通したら感情はアコースティックには届けられないのよ。みんなが忘れているかもしれないけど僕らに大事なのはアコースティックベースです。覚えて帰ってください。解散。

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好きな言葉は「アイスクリーム4割引」、嫌いな言葉は「ハーゲンダッツは対象外」です。趣味はドラえもん考察。読売ジャイアンツのファン。高2のとき現代文の全国模試で1位に輝くも、数学に関しては7の段があやしいレベル。

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